熟成という時間(とき)を感じる

さて今回のテーマは「熟成」です。最近はエイジングビーフなどの流行もあり、言葉としては熟成ブームが来ている印象です。私が10年以上前に京都のホテルオークラの鉄 板焼きのレストランでソムリエやマネージメントを担当させていただいた当時は当たり前のように高級肉を熟成させていたので、正直今更感というか鉄板焼きでは普通に行われていて、美味しく肉を楽しむためには必須でした。肉の熟成は低温下での保存を行うことで、酵素の働きによってアミノ酸などの旨味が増加して味が良くなる作用です。熟成の期間は長ければ良いというわけではなく、素材の持つ力・強さが関わってきます。
 
塊でゆっくりと火を通すローストビーフや厚切りの鉄板焼きは熟成肉の魅力をしっかりと全面に出してくれると思います。さて、熟成肉とも相性の良いワインはどうでしょうか。
ワインの熟成は適当な温度管理下で酸化と還元を繰り返して変化を起こしていく作用で、これもお肉と一緒で長ければ良いというわけではありません。ワインの飲み頃はリリース直後のフレッシュで華やかな状態からスタートして、ワインの持つポテンシャルによって熟成にどれだけ長く耐えられるか、これがワインの飲み頃の期間の長さです。
 
若いワインには若いなりの飲み頃(楽しみポイント)があり、年を経たワインにはこなれて柔らかみの出てきた中に楽しみがあるのです。 高級なワインはワインの持つ力(タンニン、ミネラルの量や味わいの深さ、酸の強さ、時に強い甘み)が何種類か重なって持ち合わせているので長期の熟成にも耐えられると考えて良いと思います。
飲み頃を過ぎて枯れた状態のワインと言うものもあります。ポテンシャルを超えて熟成した(時を超えた)ワインです。人好き好きでエネルギーに満ちたワインばかりではなく、こういった優しく滑らか消え入りそうな香りの中に良さを見いだす方もおられますし、古いワインの楽しみはただ飲むだけではなく、熟成という時間(とき)を感じると同時に自身の人生を感じることができるよい機会なのではないでしょうか。

株式会社T&Cサービス 取締役営業統括 渡邉圭一 ソムリエ、利酒師

※組合ニュースの連載コラム「酒々楽々」からの転載です。